【対談】梨本卓幹×宮里倫史『対談で伝える「響鳴」の魅力』第1回:結成秘話とコンサートへの思い
2019年11月2日開催の「梨本宮里ピアノ・デュオ Contemporary Piano Duo Concert」を記念しまして今回からこの特別コラム「響鳴への誘い」を数回に渡ってお届けいたします。
手始めに、梨本宮里ピアノ・デュオとはなんぞやという自己紹介のようなトークからしていきましょう!
梨本卓幹と宮里倫史によるピアノ・デュオ。
東京藝術大学在学中の2015年に結成。藝祭2015での自主企画コンサート「四手で奏でる現代の調べ」にて、ウルマス・シサスクの《スパイラルシンフォニー》や、アンリ・デュティユーの《響の形》などを演奏し好評を得る。2016年、東京藝術大学演奏芸術センター主催コンサート「今日は1日サティの日」ではデュオやそれぞれのソロで出演。2018年2月に開催された作曲家、高橋宏治氏の個展では世界初演を含むソロ及び二台ピアノの全楽曲の演奏を務めた。
主に現代音楽をレパートリーとした、新進気鋭のピアノデュオ。
ということで、宮里くんにも参加してもらって話をしていきます。
お互いの第一印象は「変なやつ」?
宮里:こんにちは。宮里倫史(もとし)です。
梨本:我々、大学の2年生からデュオを組んでいるわけだけれど、どう?最初の印象とか覚えてる?
宮:最初に会ったのって、入試のときだよね。確か君の順番が僕の前だったんだよ。君はけっこう自由な人だったよね笑 僕は本番前、けっこう静かにしているタイプなんだけどね、特に受験だし。実技試験直前の待機部屋でピリピリした空気感の中、僕も他の人もみんな静かにしていたんだけど、君はイヤホンで何か聴いてたんだよ。しかもそれが音漏れしてて、アニソンだったんだよね笑 なんだこいつと思いましたよ。
梨:あったねそんなこと笑。自分の気持ちを奮い立たせる曲だったんだもの。あれでも音漏れ気にしてボリューム下げてたんだけどなぁ
宮:で、さらに君はいきなり立ち上がって準備運動し始めて。変わってたよ
梨:いやぁ、ちょっとあの張り詰めた空気から開放されたくて。体が固まっちゃうと演奏に響くから。でも、変わってたといえば、僕も君が直前練習でラフマニノフのソナタ2番とベートーヴェンの熱情ソナタ弾いてるのが聞こえてきたときに、とんでもないオーラというか気迫というかを感じて、凄まじい奴がいるなぁと思ったのも覚えてるよ。さっきまでめちゃくちゃ静かに座ってたのにって笑
(▲藝祭2015「四手で奏でる現代の調べ」での様子)
マニアックな会話を続けてデュオ結成へ
梨:入学してからはよく話すようになったよね。「何故知っているんだ」って思わず言いたくなるようなマニアックな内容が多かったけど。
宮:小さい時にやってたアニメの話とか、哲学の思想実験の話とかね。ラーメンズを勧めたこともあったね。音楽だとシュトックハウゼンだっけ。
梨:ラーメンズは今でも大好きです笑。教えてくれてありがとう。あとジョン・ケージとかスティーブ・ライヒの音楽が何をしたかったのかっていう話もよくしてたよね。「こんなの知ってるかい?」とかってお互いの知っている面白そうな曲を教え合ったりしつつ。
宮:そうそう、そうしてるうちに「この曲実際にやってみない?」ってなって、じゃあデュオ組んでみようか!って話が進んでいったんじゃなかったっけ。
梨:初めて一緒に演奏したのっていつになるんだろう?
宮:藝祭(東京藝術大学の学園祭)のコンサートじゃない?
梨:藝祭か、懐かしいね。あのときも内部奏法をする曲があったから、そのために内部奏法専用のピアノを借りないといけないってことで事務の人たちのところ通いつめたんだよ。おかげで気付いたら事務の方々から「なっしー」って呼ばれるようになっていました笑
宮:あ、君の実家の音楽教室でゲスト演奏したこともあったよ!カプースチンのシンフォニエッタを弾いたはず。
梨:来てくれたことあったね!生徒さんたちにも評判よかったんだよ。あとは藝大主催の「今日は一日サティの日」ってコンサートでも弾かせてもらったことあったよね。奏楽堂とか他のホールとかでサティとかケージの作品を弾いたんだよあのとき。連弾もあったし、それぞれソロでも出演したよね。
宮:そうかぁ、振り返ってみるとけっこういろんなところで弾いてるんだね。
(▲梨本の実家、羽田音楽教室発表会ゲスト出演での演奏の様子)
現代の新曲を演奏する、その意味
宮:卒業後も、作曲家の高橋宏治さんの個展で全曲の演奏を担当するっていう大きな仕事があったよね。あれは死にものぐるいでやったなぁ
梨:二台ピアノのための曲が2曲あって、それぞれソロがあったよね。僕が17曲の鍵盤と映像のためのエチュード、君がソロの大きな曲2つだっけ。曲数もだけど、僕は電子キーボードを弾く必要があったり、映像を伴う作品だからこその指示とかもあったりして、そこの準備とか練習が大変で楽しかったなぁ。普段使わない頭を使った感じ。
宮:普段「現代音楽」として我々が扱っている曲って、実は作曲されてから100年近く経っていたりすることもあるんだけど、まさに今生まれたばかりの、本当の意味での"現代の音楽"を演奏するっていうのは、音楽を芯から理解できるかどうかの能力を真正面から問われているような気がして。苦労もあったけど貴重で充実した経験だったかな。
梨:そうだね、新曲の初演や再演を担当させてもらえるって、重い責任や大きな期待を伴うことだから、それにどう応えるかっていうことを、お互いよく考えたよね。こういうとき、演奏を依頼してくださった作曲家の方の期待に応えなきゃっていうのもあるし、それ以上に、"その曲の魅力"をどうやったら世界に向けて発信できるのか、届けられるのかっていうことを大事にしたいなって思うんだよ。それこそが我々演奏家の役目だから。
(▲高橋宏治氏作曲『2台ピアノと映像のための two lines』の演奏の様子)
はじめての自主公演に向ける思い
梨:改めまして、今回の『梨本宮里ピアノ・デュオ Contemporary Piano Duo Concert -響鳴-』、我々にとっては学外で開催する初めての自主企画コンサートとなるわけですが、宮里くん、どんな思いでいますか?
宮:今回選んだ曲目は日本初演・世界初演の曲もあるし、そうでなくても演奏機会がとても少ない作品だけれど、とても個性的で他にはない魅力を持ちあわせた作品たちなので、聞いてもらえる方々に新たに音楽の楽しみ方の選択肢に入れてもらえるような演奏をお届けできればと思っています。
梨:そうだね、現代音楽には難しいイメージが持たれがちだけど、もっと素直に「音を用いた世界観の表現」という捉え方を提案してみたい。その作りはとても複雑で読み解く大変さ、そしてそれ故の楽しさがあるんだけど、それはほとんどが演奏する側の問題。「あ、神秘的な響き方がする。ここはどんな風景なんだろう。どんな温度なんだろう。」とかって音そのものから想像力を膨らませて聴いてもらえるような、そんな演奏をしたいなと思います。
(▲藝祭2015コンサート、終演後の1枚。)
と、いうことで今回は宮里倫史くんをお迎えしまして、我々デュオの結成秘話とコンサートに向けた思いについて対談形式でお届けいたしました。次回はもう少しコンサートの中身について踏み込んで、選曲の背景やプログラムについての対談をしていきます!
どうぞお楽しみに!
梨本宮里ピアノデュオ Contemporary Piano Duo Concert「響鳴」
*日付 *
2019年11月2日 14:00開演 (開場13:30)
*会場*
公園通りクラシックス
(東京都渋谷区宇田川町19-5 東京山手教会B1F)
*チケット
*
[全席自由] 前売り:3000円、当日:3500円
*プログラム
*
・ライモ・カングロ(Raimo Kangro) : Klimper Op.20 No.4*
・デュティユー(Henri Dutilluex) : Figures de résonances
・ヒンデミット (Paul Hindemith): 2台のためのソナタ
・川上統(Osamu Kawakami) : 越前海月 (2019年改訂版)**
・ウルマス・シサスク(Urmas Sisask): The Spiral Symphony
(*日本初演 **世界初演)
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梨本宮里ピアノ・デュオ
高橋宏治
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